やれやれ。
大家さん、ようやく諦めてくれたか。
ほっとしていると
足音が裏手に回り込み、敷地内に入って来た。
友人の部屋はマンション一階の一番奥の角部屋だったため、
奥に入り込んで通路から裏手のテラスに回り込める
無防備な造りになっていた。
なので、下着ドロボーは取り放題だ。
足音はテラスにやって来た。
カーテンは閉めていたが、窓の外に人が立っているのがわかる。
突然、窓をガタガタと上下左右に動かし乱暴に開けようとする。
窓の鍵が壊れそうな勢いだ。
ちょっと、ちょっと、大家さん?
そんなに乱暴にすると自分の建物が壊れますわよ?
と思いながら、おもむろに立ち上がりカーテンを勢いよく開けると
そこには黒いサングラス、赤い広島カープのキャップ帽を被った
不審な男が立っていた。
男は驚き、来た道を引き返し慌ててダッシュで逃げた。
私は一瞬、なぜ広島カープ?
と迷いのような雑念が脳裏をよぎったが、
すぐに泥棒だと気付いたので、
というか、直前まで大家さんだと思い込んでいたが、
高速でテラスの窓を開けて
「ドロボー!」「ドロボー!」
と叫んだ。
私は急いで部屋の中に入り玄関に直行。
傘を片手に靴を履いて外に飛び出し、再び
「ドロボー!」「ドロボー!」
と、まるで号外新聞を配る社員のように何度も叫んだが、
窮地に立たされた泥棒の逃げ足は
当時のカール・ルイスよりも瞬足だった。
<後編につづく>
コメントを残す